COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

その時に彼女に感じた“なにか”
その正体に、恐らく俺は最初から気付いていた。

釣り合うわけがない、彼女に振り向いてもらえるわけがない。
そんな言い訳をして、その想いを幾度となく
はぐらかそうとした。

けれどあの日。

降りしきる雨の中、初めて彼女の笑顔を見た時。

俺の作る料理が好きだと言って、笑った彼女。
その笑顔に、ずっと振り切ってきたその想いから俺は遂に逃げられなくなった。


キッチンテーブルの上、ついに完成してしまったイタリアンオムレツをぼうっと眺める。
持って帰るように勧めたけれど、彼女は一切れだけ持って帰って行った。

彼女の答えはわかっている。
小さくつぶやいたその声は確かに俺の耳に届いていた。

それでもまるで引力が働いているかのように、彼女に惹きつけられる心は
自分の力では到底どうにもできないものになっていた。

「こんな量、どうやって食べるんだよ…」


“好きにならざるおえない”なんてこと、あり得ない。
ずっとそう思ってきた。

彼女に出会うまでは。


好きになんて、ならない。
そう抗っても、あがいても無駄だった。

彼女に会う度、見えない力に糸を手繰り寄せられるように惹かれていく。

彼女を好きだと自覚する度に、涙が出そうなほどこの胸は締め付けられる。
今も、また。

逃げ場のない胸をえぐるような痛みに、うなだれるようにテーブルへ手をついた。


「…降参だ」


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*CAFE MACCHIATO

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