COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
その時、どこからか漂ってきた香ばしい香りが鼻をかすめた。
改札のすぐ隣にあるそのお店を見ると、ガラス張りの店内は多くの人で賑わっている。
ガラスに白色の筆記体でブーランジェリーと書かれた横にはクロワッサンやバケットの絵が描かれていて、一目でそれがパン屋だとわかる。
楓と離れてから、私は毒気が抜かれていくように自分を取り戻していった。
毒気と言っては言い方が悪いのかもしれないけれど、
自分が誇れる自分でいたい。そう思えるようになったのは、きっと彼のおかげだ。
あれっきり彼とは会っていない。
会社でも容易く顔を合わせることがないのが、大企業の長所なのかもしれない。
けれど彼がベッドの中で見せた、少年のような無邪気な笑顔だけは頭から離れずにいた。
駅の構内を抜けて外に出ると、これでもか、と言わんばかりの青空が真上に広がる。
あの日もそう、こんな快晴だった。
彼女とこうして会社の外で会う日は、いつもこんな快晴の日が多いような気がする。