COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
「…ただいま」
『はい、これ。
服乾かしてくるから、その辺に座っといて』
彼は私にマグカップを一つ手渡すと、ダイニングテーブルの椅子に掛けられていた服を手にリビングを出ていった。
マグカップを手に、ゆっくりと歩を進めながら部屋を見渡す。
大きな窓の傍に置かれた背の高い観葉植物。
大き過ぎないブラウンのダイニングテーブル。
グレー色のラグの上には綿麻のような素材のベージュのソファがあり、
その上に置かれた深いブルーグリーンとオークオレンジ色のクッションがとてもセンスが良くて
部屋をモダンにし過ぎず、とてもバランスが良い。
ソファへ座ると、目の前ローテーブルにマグカップを置く。
よく見れば目の前の楕円形のテーブルに重なるようにそれよりも少しだけ背の高い丸型のテーブルが置かれていて、
その上には本や新聞が無造作に重ねられていた。
一番上の本には美味しそうな丼ぶりの写真の上に、でかでかと“大満足!男の節約めし”と書かれている。
「ふっ」
このマンションに不似合いなその題名に思わず吹き出す。
本を手にしてパラパラとめくると、所々に付箋紙が貼りつけられている。
「主婦かっ」
小さく笑いながらツッコミを入れていると、扉の空く音がして彼が戻ってきた。
『ただいま』
「おかえりなさい…ってあの…それ、癖ですか?」
彼は手にしたマグカップをテーブルへ置くと、
意味が分からないと言わんばかりに少し怪訝そうな顔をして、私の隣へ腰かける。
「そのさっきから、ただいまとか、おかえりとか…」
『いや、昔からだけど。…普通だろ』
きっとそういう家族間での癖みたいなものだろう、そう思うと心が温かくなる。
彼の至って真面目な顔を見ていると、思わず笑みが零れた。