気づけば彼らの幸せはそこにあった
この時に感じた冷たい感触。
この手の冷たさは、忘れることができなそうだった。



「名前はなんて言うの?」


「坂森秋奈(さかもりあきな)」


「秋奈さん。俺は江戸川賢人(えどがわけんと)。2年生です」


「あたしは.......3年生です」



学年を言うのに一瞬考えた秋奈さん。
なぜ、そこで止まるのかは不思議だったけど、特に気にはとめなかった。



「秋奈さん、そこに座ってもらっていいかな?ごめんなさい、じーっと見ることになっちゃうけど」


「ううん。大丈夫」



彼女は俺の言う通り、椅子に座って背筋を伸ばして俺に向き合ってくれた。

人物を書くことはこれまでもあったけど、こんなふうに本格的に書くのは俺自身初めてで、緊張してしまうけどせっかくモデルになってくれた秋奈さんのためにもいい絵を書かなきゃならないと力がはいる。



「すごい、真剣な目をするのね」



絵を描き始めて30分。
彼女の姿を見ては、キャンバスに描くを繰り返すこと何十回。

口を閉ざしていた彼女が、一言そういった。

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