気づけば彼らの幸せはそこにあった
「真面目に書かないと、秋奈さんに失礼じゃないですか」


「ふふ、続けてくれててよかった」



ニコッと笑う彼女にドキッとしたけど、彼女の言った言葉が俺の中で引っかかる。

たしかに今、彼女は
──続けてくれててよかった。
そう言った。

まるで、俺が絵を描き始めた頃から見ていたようなそんな言葉。
そして、それを見れなくなっていたような言葉だった。



「あの、以前に絵を見てもらったことでもありましたか?」


「.......え?」


「続けてくれててって.......」


「あぁ、少し見かけたことがある程度よ。その時の絵がとても素敵だったから」


「.......ありがとうございます」



素敵だと言われて、喜ばないやつなんていない。
しかもそんなふうに笑顔で言われて、浮き足立たないやつなんてきない。


俺は彼女のことを描く一筆一筆に想いを込めて描いた。

静かな、でも心地のいい沈黙のなかで、合間合間で休憩を挟みながら、向かいあった時間は5時間。

俺がキャンバスに描く音だけが聞こえる、心地よい静寂。

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