気づけば彼らの幸せはそこにあった
「桜井さん、好きなんですね。秋奈さんのこと」


「そうだな.......好きだな」


「きっと、秋奈さんも桜井さんのことが好きですよ」


「や、それはないだろ。だって、秋奈はお前のことが.......「俺のことは多分弟的な感じだと思いますよ。今思えば.......桜井さんのキャンバスに手を触れてました」



あの時は気にもしてなかったけど、美術室から出る直前、しばらく出て行かないなと思ったら、桜井さんのキャンバスを大事なものを見るようじっと眺めて、そしてタカラモノに触れるように手を伸ばしてた。

なにしてるんだろうと思っていたけど、あれは桜井さんを見ていたんだ。



「ただ、触れてただけだろ」


「いいえ、あれは大切なものに触れる感じでしたよ。ほら、秋奈さんに自分の気持ちちゃんと伝えたんですか?耳元で伝えればきっと、こっちの世界に呼び戻せますから、言いましょ。恥ずかしいと思うんで俺は帰りますね」



ポンポンっと桜井さんの背中を叩いて、俺は病室を出る。

病室を出る瞬間に、ぐすっと鼻をすする音が聞こえたのには気づかないふりをして。

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