彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
今日は裏口のサンダルで来てしまったなーと足元を見ながら思う。

面倒だけど、少し離れた裏口に回る。

と、その時。

「平良!」

沙和の声がした。
え!
ええ!

俺を引き止めるなんて、一体何事!?

「なに。」

そう言う俺のところまで歩いてきた。

「昨日の告白・・・。」

ああ、矢野美織!
また思い出した・・・。

「ああ、今日ちゃんと断ったよ。」
「うん、矢野さんだったんだね。」

ギク。
絶対犯人は松崎か五反田だ。

「早いな、情報回るの。」

口の軽さに驚く。
まあ、人のこと言えないけど。

「なんでかなって思って。」

沙和が少し首を傾げて言った。

「何が?」
「なんで、矢野さん断るために私と付き合ったの?いいの?それで。」

え?
いいけど、全然。

沙和は納得いかないような顔だ。

矢野美織の方がかわいいのに、なんで私?って顔してる。

ここは堂々と言うべきだろう。
そもそも矢野美織のこと全然好きじゃないし、むしろ今日の一件で嫌いになった。

「なんでって、ただ矢野さんより沙和の方がいいから。それだけ。」

俺は慎重に言う。
すると沙和は「え?」と驚いた。

「なに?」
「そうなの?」
「うん。」
「矢野さんより私の方がいいの?」
「うん。」
「あんなに可愛いのに?」

結構しつこい。

「可愛いか?」

俺が逆に聞き返すと、沙和は「え?」と驚いた顔をする。

「まあ顔は整ってるけど、性格知らないし、俺は別に好きじゃないけど。」

むしろ嫌いだ。
あの女は乳だけの女なんだ。

沙和は「そっか。」とゴニョゴニョ言ってそのまま家に帰りそうになる。

おいおい、ちょっと待て。
そんな微妙な反応じゃ、俺が納得いかないぞ。

俺は少し呼び止めたくて声を張った。

「沙和は毎日一緒にいるから分かる。」

沙和が振り向いた。

「性格とか。」

俺は、沙和のことは大体なんだって知ってるつもりだ。

実際は暇で、漫画読むくらいしかやることないことも。

声が低温で愛想なくても実際は怒ってないことも。

少しクールに感じるけど、優しいことも。

付き合ってからハズレだったなーなんてどこかの誰かみたいなことは絶対に言わない。

俺にはそんな自信がある。

「まあ、そうだね。」

しかし、どうやら沙和はピンときてない様子だ。

「うん、だから今まで通りだったらハズレはないだろ。」

誰かの言葉を借りてキメてみた。
今までみたいに2人でくだらないこと話していれば、間違いなく楽しいはずだ。

「ハズレはない・・・。」
「そうだ。これでいい?」

心にちゃんと響いたんだろうか。
でも俺は言うべきことは言った気がする。

裏口のドアに手を掛けた。

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