彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
夜。

19時前に店に入る。

だんだんおばさんが、心配そうな目をして俺を見るようになってきた。

「大丈夫?忙しいんじゃない?」
「あ、大丈夫っす。」

おばさん、俺が元気ないのは忙しいからじゃないんです。

恋の病です。

「何か食べたいのある?」

席に着くと、おばさんが小声で聞いてきた。

「おばさん、実は俺、鶏皮ポン酢が食べたいです。」
「あら、あれ好きなの?」
「好きなんです。」

おばさんは「オッケー」と言って厨房に戻っていく。

数分後におばさんが持ってきた定食の真ん中には、鶏皮ポン酢が入った小鉢が置かれていた。

「おばさん・・・!」
「ちょっとは元気出してもらわないと。平良くん、来週から予選でしょ?明日からは毎日スタミナ炒めにするからね!」

ジーンと心が震える。

沙和に避けられてるくらいがなんだ。
みんな俺を応援してくれてるんだ。

恋がなんだ、女がなんだ。
俺は今、頑張らないといけないんだ。

「おばさん、俺今泣きそうです。」
「やだー、頑張って。私にはこのくらいしかできないから。娘のかわいい恋人だもの。」

ああ、おばさん、もしかしたらもうすぐ破局するかもです。
ごめんなさい。

俺の表情が曇ったのかもしれない。
おばさんが少し小声になる。

「最近一緒にご飯食べてないけど、なんかあった?」

心の中の俺がブンブン首を縦に振る。

「なんか、沙和と最近全然話せてないんですよね。嫌われちゃったかなあと思って。」
「喧嘩したの?」
「してないと思うんですけどね。」

俺が言うと、おばさんはスッと立ち上がった。

「あの子の考えてることは、親の私にも分からないから。たぶん、気のせいよ。」
「えっ?」

おばさんはそれだけ言って厨房に戻っていった。

気のせい、か?
俺は完全に距離置かれてる気がしてならないんだけど。

自然消滅を目論んでるようにしか思えない・・・。

心がどんなにどんより曇っていても、鶏皮ポン酢はやっぱり美味しかった。
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