彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
帰りはあっという間に時間が過ぎる。

俺は駅で降りる組だ。
バスに乗ってた過半数が駅で降りた。
五反田も一緒だ。

なんとなくまっすぐ家に帰るにはまだ時間が早い気がして、五反田とコンビニに立ち読みしに入る。

「あ、お前さ、ちゃんと準備しとけよ。」

突然五反田が雑誌から顔を上げて言う。

「何を?」
「ゴム。」
「ゴム?」
「コンドーム。」

飄々とした口調でとんでもないキーワードが飛び出してきた。

五反田は振り向いて顎で低い位置にあるそれを指す。
俺もおそるおそる振り向くと真っ先に目に入ってきた。

思わず窓側に視線を戻す。

「いや、多分俺、1年は使わないと思う。いらない。」

俺の言葉に、五反田がため息を吐く。

「お前さあ、もしそういう場面になって『ない!』とか『つけられない!』ってなるよりも、ちゃんとあらかじめ準備できてた方がスマートだぜ。」

なんなんだよ、今日お前三振しかしてねえだろ。

俺は渋々また振り返って値段を見る。

「きゅ、900円もするの?あんな風船みたいなやつが!?」
「風船じゃ避妊できねえだろ。」
「そりゃそうだけど、ゴムだろ、所詮。」
「でもアレがあれば、安心して彼女とイチャイチャできるんだぞ。」

言葉を失う俺。

「俺が見守っててやるから買ってこい、今すぐ。」
「今!?」

慌ててコンビニ内を見渡す。

「レジに大学生っぽい兄ちゃんいるし、買いやすいじゃん。」
「それでも、今!?やだやだやだやだ。なんでお前に見守られて買わなきゃいけないんだよ。」

五反田はニヤッと笑う。
嫌な予感がした。

「野球部内でネタにすんだろ。」

またニヤッとする。

くそ、こいつ。

「お前、今日の超弱小相手にヒット1本も打てなかったくせに、なんで女のこととなるとそんな偉そうなんだよ。」
「もうとっくに経験済だから。」

五反田がすまして言いやがった。

「そんなにセックスすることが偉いのかよ!部活とか勉強とか頑張ってるやつより、セックスしたやつの方が偉いのかよ!お前、二次関数のグラフの書き方、教えてあげたよな!?俺、教えてあげたよな!?」

俺の必死な反論にも、五反田はビクともしない。

なんだ、この悠然たる余裕よ・・・

完全なる敗北。

身長は俺の方が2cm高いのに、こんなにも負けを感じるとは・・・

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