彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
沙和は困ったような笑顔を浮かべて言った。

「・・・いないかな。」

その言葉を聞いた途端、今俺が沙和の腕を掴んでること自体、最悪なことなんじゃないかと思った。

「ごめん。」

沙和には好きな人がいなかった。

好きでもないのに、俺と付き合っていた。
俺に付き合わされていた、と言った方が正しいかもしれない。

たった一度の宿題で、付き合わされてた身なんだ。

沙和の手から帽子を取る。

好きでもないやつの部屋に上がるなよ。
勘違いしそうになるだろ。

五反田のバカ。

恥ずかしくて、情けなくて、顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。

「お前、好きでもない奴の部屋にあがり込んじゃダメだよ。」

ついキツい口調で言ってしまった。
子ども過ぎる。

「べつに平良だからいいじゃん。」

沙和は相変わらずの低音で答えてきた。

俺だからか。

手を出さない安心感というのか、異性として見てないというのか、幼なじみだからか、いろいろ頭の中がごちゃまぜになる。

沙和にとって、俺はなんなんだろ。
暇つぶしの付き合いなのか。
何か、都合よくて付き合ってるのか。
「彼氏がいる」って言いたいのか。

なんなんだろ。

沙和を家まで送るために、フラフラと玄関を出た。
靴を履いたところで沙和に呼び止められる。

「ねえ、平良。平良はいるの?好きな人。」

少し笑みを浮かべたその表情が、「他人の恋愛事情」を聞いて楽しんでるように見える。

自分には関係のない気楽な話みたいだ。

「だれか他にいるの?」って感じ。

俺は意を決して言う。
沙和だよ、沙和。

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