彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
少しの沈黙があった後、沙和が「あ、平良、ご飯。」と冷静な声で言う。

このタイミングでご飯かよ。

俺は視線を厨房の方に向けると、おばさんが定食を手にタイミングを見計らっているようだった。

「あ、ああ、すみません。」

俺が言うと、おばさんはすごく申し訳なさそうな表情をしてきた。

「あら、なんだかお取り込み中ごめんなさいねえ。」

気まずそうに定食を置くと、「じゃあ、ごゆっくり。」と戻っていった。

うわああ
おばさん、ごめん。
短くして終わりました。

「おばさんに聞かれてしまったぁー。」

思わず気持ちが漏れてしまう。

俺のカッコ悪いところも全て見られた気分だ。

「だね。」と沙和が笑う。

なんとなく今ので気が抜けた。

もうこのまま、3週間前までの俺たちに戻ればいい。
とりあえず今日はさっさとご飯を食べてしまおう。
今までみたいに、いつも通りの会話をしよう。

俺が箸に手を伸ばした時だった。

「平良。」

沙和の震える声がした。
俺は顔を上げた。

沙和がまっすぐ俺を見てきた。

「私は、まだ別れたくない。」

沙和の一言に、俺の思考が止まる。

「・・・あ、そう。」
「うん。」
「そうなんだ。分かった。」

ぼんやりと返事をする。

これは、一体どういうことだろう。

落ち着くためにご飯を食べ始める。

ん?
別れないってことか?
なんで?

なんで、そんなに俺にこだわる?

ご飯を食べながら、鈍く脳内がグルグル回る。

沙和の気持ちがさっぱり分からない。

やっぱり俺を利用し尽くしたいのか。
はたまた・・・

そこで俺は箸を止めた。
沙和の顔を見る。
沙和のまっすぐな目がこっちを見る。

「沙和さ、もしかして俺のこと、好きじゃね?」

自分の言葉に、一番驚いたのは俺自身だった。

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