彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
「俺、沙和ならいいなと思って。」

少し勇気を出して声を張って言った。
また沙和がいぶかしげな顔をして俺を見る。

「ん?どういうこと?」
「沙和が彼女になったら、別に何も変わらないし、勉強や部活の邪魔にならないし、何の支障もないじゃん。」

何言ってんだ、俺。
沙和の良さを言うところだろうが。
すげえ消去法みたいな褒め方になってる。

「え?なに?彼女ってなんなの?」

やべえー。
なんか怒りが増してるって感じ。
怖いんすけど。
言わなきゃ良かった。

米をまた一口頬張る。
ああ、どうしよう。

あれ?今沙和なんつった?
質問覚えてねー。

ほとんど噛まずに米を飲み込む。

「その、今日の彼女と付き合うことになったら俺の生活が変わってしまうわけじゃん。『あれやろう、これやらないで、こうして、ああして』って言われるのが想像つくから面倒くさい。」

矢野美織の悪口かよ、俺。
沙和が呆れたようにため息を吐き捨てた。

「それだと、私と付き合う意味ないじゃん。」

意味、意味ってなんですか。
ダメだ、もう面接並みに緊張して、俺もう沙和の質問の意図がさっぱり分からねえ。

「意味っていうか、『彼女いる』って言おうと思って。」

逃げるように小声で言う俺。

もう怖くて沙和の顔を見れない。

頼りにしてた米がなくなってきた。
茶碗に残った粒を集めるしかない。

「付き合っても何も変わらないの?」

ん?
え、どういう意味?
なんだろう、「変わる」って。
生活がってこと?

口の中に入れた数粒の米をゴキュッと飲み込む。
飲み込むっていうか、唾を飲み込もうとしたら勝手に米まで喉に流れてきた。

「変わらなくない?今だって毎日会ってんじゃん。」

ああ、ダメだ・・・

もう、胃が・・・

胃がいてえ・・・

沙和が考えてる。

振るならサラッと振ってくれ。

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