彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
結局20日はあっさりとまた自宅に帰ってきた。
ばあちゃんも、すぐ退院するようだ。
23日の夜、衝撃的な事件が起こった。
「こんばんはー。」
いつも通り沙和ん家に入る。
と、沙和がいつもと違って笑顔を浮かべていた。
「ん?どうした?ニヤニヤして。」
「え、ニヤニヤしてた?なんでもないよ。」
沙和はそう言って、頬に手を当てる。
かわいいじゃん。
俺は椅子に座る。
あっという間に俺専用定食が運ばれてきた。
余談だけど他の常連客が、俺の定食を見てたまに羨ましがることがある。
これは残念ながら、うちと沙和ん家が契約を結んでいるから提供を受けられてるのであって、一般的には出回っていないのだよ。
たまにすげえ申し訳なくなる。
だってこんなに美味くて、500円。
ふとトイレ前のカレンダーが目に入った。
今日は8月23日。
「夏休みもあっという間だな。」
つい口から溢れた。
「そうだね。私夏期講習しか予定なかったよ。」
沙和がどこか寂しそうな口調で言う。
これはもしかして、俺との映画デートがなくなった悲しみを含んでるのか?
「ごめん。」
俺が謝ると「え?」と驚くように言った。
「いや、この間ドタキャンしたの申し訳なかったなと思って。」
改めて謝る。
「ううん、全然気にしてないよ。仕方ないことだし。」
沙和が明るく言う。
いいやつ。
でもダメだ、このままではデートが流れてしまう。
せめて夏休み中に一度は行っておきたい。
そして話題になってる間に観ておかないと、とも思う。
そう、映画だ。
どんなどんでん返しが待ち構えているのか。
同じ監督の映画を2回観てるけど、すげえ面白かったから、今回のも絶対に間違いない。
デートで観たら「楽しかったね」ってなるに違いないんだ。
「上映中に観に行こうな。」
俺が力強く言ったその時、テーブルの上に置かれていた沙和のスマホが鳴った。
画面がパッとつく。
「田尻くん
遅くなった、ごめん!今日体調崩してて・・・」