彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
反射的に叫んでいた。

沙和が少し止まって周りを見る。
でも俺に気付かない。
ダメか。

俺は前方に流れて行く人を掻き分けるようにして遮る。

「沙和!」

沙和が不思議そうな顔をしてこっちを見た。
目がバッチリと合った。

良かった。

「え、なんで・・・」

沙和が驚いたような様子で言う。
なんでって・・・。

「沙和ん家行ったら、おばさんが塾のみんなと花火大会行ったって・・・」

めちゃくちゃ息が切れる。

「俺だろ。」
「えっ?」
「なんで塾の奴らなんだよ、俺だろ。」

ほとんど脳で考える間もなく口から出てきた。

ずっと思ってた言葉だ。

「でも、平良・・・」

沙和が言いかけるのを遮っていた。

「俺には沙和しかいねえよ、花火を一緒に観たい人なんて。」

沙和は困った顔をしている。
俺は悪いことしてんのかな。

田尻のこと好きになってる沙和を困らせてるのかもしれない。
最後の悪あがきかもしれない。

「でも、平良、今日練習試合だって・・・」

え・・・?

ふと、20日の映画を約束した夜を思い出した。
そういえばあの時、さりげなく今日の予定聞かれてたかもしれない。
そうだった気がする。
それを練習試合で断っていた。

花火大会のことだったのか。
なんだよ、花火大会って言えよ。
気付かねえよ。

「バカか。夜まで練習試合でかからねえよ。」

つい口調が荒くなってしまった。
沙和が俯く。

今日、急いで帰る準備をしてた荒木や五反田の姿を思い出した。
みんな彼女との約束のために急いでた。

なんだよ。

そうだよな。
急ぐよな。
好きな人との約束だったら間に合わせるよな。

「好きな人との花火大会だったら、何が何でも来るに決まってんだろ。沙和と来れるなら、何が何でも間に合わせるよ。」

沙和が俺の顔を見る。

< 79 / 96 >

この作品をシェア

pagetop