素直になれない夏の終わり
序章 高校時代の二人
それは、津田 直哉と北井 夏歩が高校二年生に上がってすぐの頃。
「なっちゃん、俺と付き合おう!」
突然の津田からの告白に、夏歩は驚きでしばらく言葉が出てこなかった。
そんな夏歩に向かって津田は、もう一段階大きな声で
「俺と、お付き合いしましょう!」
「……いや、聞こえてるから」
夏歩の答えに、津田は「あっ、そう?」と安心したように笑う。
「無言だったからてっきり聞こえてないのかと思って」
驚きすぎて言葉が出てこないという現象を、この男は知らないのだろうかと夏歩は思った。
「それで、お返事は?もちろん“はい”だよね。はい以外にないよね」
「……なんでよ」
“はい”を強要してくる津田から、夏歩はじりじりと距離を取る。
放課後の教室に二人きりという、告白にはややベタ過ぎるシチュエーション。
校庭からは運動部の声が、廊下からは吹奏楽部の楽器の音が聞こえてくる中で、津田と夏歩は机を一つ挟んで向かい合っている。
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