素直になれない夏の終わり
「ポケットに手入れて歩くのって危ないんだよ」
「誰かさんが“手、繋ごう”とか言うからでしょ!」
「だってほら、俺の手今凄くあったかいから、カイロ代わりに欲しいかと思って」
「結構です」
確かに吹き付ける風が冷たいので肌寒くはあるけれど、カイロが欲しくなるほどではない。
「そんなこと言わずにほら、ちょっと触ってみない?案外、一度触ったら手放せなくなるかもよ」
「一度触ったら離れなくなるの間違いでしょ」
ポケットに入れた手は出さないまま、夏歩は歩き続ける。
その隣を悩ましげな顔で歩いていた津田は、やがてハッと思いついたように顔を上げた。
「わかった!なっちゃん。じゃあさ、コンビニでココア買ってあげる。だから手繋がして」
「何がわかったのよ!大体ね、“ココア”って言えば言うこと聞くと思ったら大間違いだからね」
「お会計の時は俺が折れたんだから、今度はなっちゃんが折れる番だと思うよ」
「それとこれとは話が別でしょ!あっ、ちょっと、こっち来るな!!」
伸ばされる津田の手を避けるうち、自然と歩調が早くなって、終いに夏歩は逃げるように駆け出した。