素直になれない夏の終わり
「まあでも、食べられるものが出来ただけ良かったよね」
当時も津田は、半生の人参をガリガリ齧りながらそう言っていた。
「美織のとこなんて悲惨だったじゃん。カレーなのにライスがなくって、みんなしてルーだけ食べてて」
あれは、今思い出しても何とも悲しい光景だった。
飯盒でご飯を炊いたことなんて誰もないうえに、担任が夏歩に張り付いていたおかげで美織の班は見事にご飯を焦げ付かせ、結局ルーしか食べられるものが完成しなかったのだ。
「あの時、ちょっと目を離した隙になっちゃんが男に呼び出されて二人でどっか行ったって聞いて、俺かなりヒヤヒヤしたんだよ。日々地道なアプローチを仕掛けてた俺を差し置いて、どこの馬の骨ともしれない奴になっちゃんを横からかっさらわれたんじゃないかと思って」
「……どこの馬の骨って、同じクラスの男子でしょ」
その時の呼び出しの理由は、津田が心配していたような青春っぽいことではない。
夏歩は、美織と同じ班の男子に呼び出され、“ご飯がないのはお前のせいだ”と責められたのだ。