素直になれない夏の終わり
その時のことで夏歩が鮮明に覚えているのは、責める男子の顔や言葉ではなく、気づいて飛んできた美織が鬼の形相でその彼を叱り飛ばす様子と、慌てふためいて駆け寄ってきた津田の姿。
あの時津田は、「何してたの!?いや、何されたの!?告白されたんじゃないよね、違うよね!」としばらく煩かった。
夏歩が答えないのを肯定と取って、既に美織の怒りに半泣きになっている男子のもとに詰め寄ろうとしたので、慌ててそうではないと答えたけれど。
煩く聞かれた時にすぐ答えられなかったのは、割りと本気で責められたので今にも泣きそうだったのだ。
泣き顔なんて津田には見られたくなかったから、それを誤魔化すことに忙しくてすぐには答えられなかった。
「今となっては、懐かしくもいい思い出だね」
津田がしみじみと呟く。
「懐かしくはあるけど、別にいい思い出ではない」
それに夏歩は、ややぶっきらぼうに答えた。