素直になれない夏の終わり
9 鍋を囲む二人
微かに聞こえた物音に、夏歩は薄らと目を開ける。
もぞもぞと寝返りを打って音のした方を窺うと、そうっと部屋のドアが開くのが見えた。
なるほど、先ほど聞こえた音は鍵を開ける音もしくは玄関のドアが開く音かと夏歩は納得し、そうなると誰が来たのかもわかったので、部屋に入ってきた人物を確認することなく目を閉じる。
二度寝をするつもりだったのだが、なんとなく時間が気になったので、また目を開けて枕元のスマートフォンに手を伸ばすと、掴んで布団の中に引きずり込む。
ついでに自分も頭まで潜り込んでから時間を確認すると、いつもの起床時間より二時間も早かった。
そんな時間に津田は夏歩の家にやって来て、先ほどからなるべく音を立てないように気遣いつつ、キッチンで朝ご飯かもしくはお弁当の支度をしている。
こんな時間に夏歩の家を訪ねようと思ったら、一体津田は何時に起きているのだろう。
それを毎日だなんて、夏歩には考えられないような生活だけれど、津田はそれを平然とこなしている。
そこまでしてくれたからといって感謝をするわけでもないし、毎日作ってくれるご飯に対して“美味しい”の一言も素直に言わないのに、それでも津田は夏歩の為に、毎日早起きをしてやって来る。