素直になれない夏の終わり

「皿、シンクに置いておいていいよ。ココア飲むよね?さっき一度沸かしておいたからすぐ沸くと思うんだ」


そう言って、夏歩に続いてシンクに皿を置いた津田は、ヤカンがかけてある方のコンロに火をつける。

座ってていいよ、とのことなので、夏歩はお言葉に甘えて自分の定位置へと戻った。


「そうだ、なっちゃん」


津田の声に被せるようにして、早速ヤカンがカタカタと音を立てる。
すぐさま火を止めた津田は、マグカップにココアの粉を入れながら、話の続きを始める。


「そろそろさ、お鍋の季節だよね」


言われて、確かにと夏歩は思う。そろそろ、お鍋が美味しい季節だ。だからなんだとも、同時に思ったけれど。


「夕飯に作ろうと思うんだけど、どう?」


とぽとぽとマグカップにお湯を注ぐ音がして、ほどなく津田が夏歩の前に湯気の立つカップを運んでくる。

津田の問いに答える前に、夏歩は漂う甘い香りを吸い込んだ。

また夕飯を作りに来る気なのかとは、もう聞かない。聞かないと言うか、それが当たり前になりすぎて、夏歩の生活に馴染みすぎて、いつの間にか聞くのを忘れていた。

だからこの時も、ややぶっきらぼうではあるけれど、夏歩は「いいんじゃないの」と返して、持ち上げたマグカップに息を吹きかけ、大好きな濃い甘さを、幸せそうな顔で堪能した。




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