素直になれない夏の終わり

「そろそろ出ないと間に合わなくなるからもう行くけど、ヤバいと思ったらすぐに連絡するのよ」

「……ごめん……後でお金、返すね……」

「そんなこと今はいいから、ちゃんと寝てるのよ。裕也のとこの手伝い、誰かに代わってもらえそうだったら仕事終わりにまた寄るし、それが無理でも店が終わったら様子見に来るから」


うん……と力なく返して夏歩が鼻を啜ると、美織がすかさず箱ティッシュを手の届くところに置いた。


「最後にもう一回だけ言うけど、あたしは津田に連絡した方がいいと思うわよ。向こうの方があたしより早く終わるし、津田なら、夏歩が風邪引いたって知ったら飛んでくるだろうし。昼休みにだって様子見に来るかもよ。あたしとしては、そっちの方が安心なんだけど」

「……嫌だ」


夏歩の答えに「全く……」とため息交じりに呟いて、美織は足元に置いていた鞄を持ち上げる。


「それにしても、夏歩が風邪だなんて珍しいわよね。何年振り?」

「……こんなに辛いのは、中二の終わりだったか……中三の初め以来……」

「それは随分とまあ、健康体で」


感心して呟いた美織は、テーブルの上の鍵を手に取って夏歩に見えるように掲げる。
それは、津田に鍵を取られてからずっと、夏歩が使っている本来なら合鍵の方。
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