素直になれない夏の終わり
持ち上げられていた前髪が下ろされて優しく梳かれる感覚に、夏歩は億劫な気持ちを抑え込んで薄っすらと目を開けた。
ぼんやりとした視界に映ったのは、背中。ベッドの上の夏歩に背を向けて、テーブルの方を向いて手を動かしている。
「……美織……?」
問いかけたら、その背中が振り返った。
「もうちょっと寝てな」
そう言って、伸びてきた手が優しく夏歩の頭を撫でる。
しばらく浸ってから「水……」と小さく呟いたら、頭を撫でていた手が一旦離れて、「はい」とストローが口元に近づけられた。
ちょっとだけ上体を起こして、夏歩はストローに吸い付く。
満足して口を放すとストローが遠ざかって、また頭を撫でられた。
「おやすみ」
頭を撫でる手と同じに、その声音は優しい。
夏歩は浸るように目を閉じて、今度はそのまま眠りに落ちた。
意識を手放す寸前、優しい手と声音の持ち主が、小さく呆れたようなため息をついた。
「……こんな時くらい、素直になってくれてもいいのに」
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