素直になれない夏の終わり

「……朝は寒かったけど、今は体が熱い。あと、変わらず喉と頭が痛い」


熱が上がって来たのね、と美織は、夏歩に体温計を差し出す。

受け取って脇の下に挟むと、美織は夏歩の額に手を当てて、すっかり乾いていた熱さましのシートを新しいものに貼り替えた。

ピピっと終了音が鳴ったところで夏歩が体温計を抜き取ると、美織が手を差し出す。


「七度八か……結構あるわね」


どうりで体が熱いわけだと思いながら、夏歩は美織の呟きを聞く。
そこに津田が、チンして温めたお粥を持って現れた。


「……お腹空いてない」


それを見た夏歩が力なく呟くと、「それでも食べるの」と美織にピシャリと返された。


「食べなきゃ治るものも治らないんだからね」


それは夏歩だってわかっているけれど、食べたくないものは食べたくない。
それを表情で訴えてみたところで、美織が許してくれるわけもないのだけれど。


「ほら、夏歩。少しでもいいから」

「……少しって、一口?」

「せめて三口」

「……うげ……」
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