素直になれない夏の終わり

「それは、恋の駆け引きってやつだよ。押してもダメなら引いてみろって言うでしょ?」


チラッと視線を向けてその顔を見つめ、また夏歩はふいっと視線を逸らす。


「……何が駆け引きだ」


ふふっと可笑しそうに津田が笑うと、反対に夏歩の表情はムスッとする。


「その勝ち誇ったような顔を今すぐやめろ」

「別に勝ち誇ってないよ。それとも、なっちゃんは俺が勝ったと思ってるってこと?それってつまり――」

「汗かいて気持ち悪いからお風呂!」


夏歩が津田の言葉を遮ると、津田も負けじと夏歩を制する。


「ダメだよ、なっちゃん。今何時だと思ってるの。あと風邪引きはお風呂に入ってはいけません。せっかく起きたんだから熱測って」

「いいよ。たぶん下がってるし」

「測ってくれたらココアプリン出してあげる」

「……私は子供か」


不満げに言いつつも、夏歩はテーブルの上の体温計に手を伸ばした。
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