素直になれない夏の終わり

睨んだまま答えたら、津田から「了解」との返事がくる。
それじゃあまた明日、と手を振る背中を見送りながら、夏歩は自然と口を開いて


「気を付けて帰……れば、いいと……思う……」


今まで一度も口にしたことのない言葉に、言った自分がビックリして変な感じに途切れてしまったが、言われた津田も驚いたように振り返っていて、しばらく廊下に足を踏み出した体勢で固まっていた。

ややあって、津田は我に返ったように動き出すと、廊下に踏み出していた足を部屋の中に戻して、スタスタと足早に夏歩に歩み寄った。


「な、っ……!?」


なによ、と言う暇もなく、近づいてきた津田に座ったままの状態で抱きしめられ、驚いてされるがままになっているうちに離される。

一瞬よりはちょっと長い、でもほんの数秒ほどの出来事だった。


「……何するのよ」


先ほどよりずっと近くにある津田の顔を睨みつけ、改めて言ってやると


「あんまり可愛いから我慢できなかった。むしろ、ハグだけで収めた俺を褒めて欲しい」


そう言って、津田は大変嬉しそうにヘラっと笑った。
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