素直になれない夏の終わり
終章 夏の終わりの二人
「なっちゃーん、朝だよー。ほら、起きてー。そろそろ起きないと、遅刻するよー!」
目覚ましよりも煩い声に夏歩が薄目を開けると、津田の笑顔が視界いっぱいに広がった。
「……近いんですけど」
「おはよう、なっちゃん。知ってる?おとぎ話とかでは、眠ったお姫様を起こすには王子様の――」
「朝から鬱陶しい!」
どいて、と半ば強引に視界一杯に広がる津田の顔を手の平を使ってどかすと、夏歩はすぐさま体を起こす。そんな夏歩を見て津田は
「やっぱりインパクトのある起こし方のほうが、なっちゃんはすんなり起きるんだね」
などと呟きながらキッチンに向かった。
その背中を物言いたげに睨みつけながら、結局は何も言わずにベッドから降りた夏歩は、着替えを手に洗面所に向かい、朝の支度を済ませてから部屋に戻る。
テーブルの上にすっかり朝食の用意が整っているのはいつも通りで、本日は白ご飯に味噌汁と焼き魚という完全なる和朝食。
二人共腰を下ろしたところで、微妙に揃わない「いただきます」の後に食べ始める。
夏歩がまずお椀を手に取って味噌汁を飲んでいると、魚の身を箸でほぐしながら津田が言う。