素直になれない夏の終わり
「俺のことはお気になさらず。あったかいうちにどうぞ」
そんな夏歩に、津田は手でマグカップを示すようにして“どうぞ”と促す。
「……見られてると気になるんですけど」
そう?と首を傾げた津田は、次の瞬間「あっ!」と嬉しそうな声を上げる。
「それはついに、なっちゃんも俺が向ける熱い視線に気が付いたと言うことで、俺を意識し始めたと言うことで、いい?」
「いいわけあるか!!」
怒鳴って、このままでは埒が明かないことに気付いて、夏歩は諦めて体を斜めにする。
本当は背中を向けてしまいたかったが、そこまですると本当に意識しているみたいで、津田を喜ばせる危険性があったので、真正面から視線を受けなくて済むようにだけして、後は諦めてマグカップを口元に寄せる。
ブスッとしていた顔も、立ち上る湯気を吸いこめば立ちどころに崩れる。
甘い香りを堪能したら、そうっと息を吹きかけてから一口。
夏歩の顔から怒りや不機嫌さがすうっと消え去って、やがて幸せそうに頬が緩む。
それを、本当は正面から見たいところだけれど横顔でグッと我慢して、津田は眺める。
それから自分も満足そうに微笑んで、ようやくホットミルクに口をつけた。