素直になれない夏の終わり
「……ひとの大事なココア、勝手に飲まないでよね」
幸せそうな顔から一転、横目で睨みつけるようにして夏歩が言う。
「残念、ホットミルクだよ。ココア作った時に余ったから」
ほら、と津田がマグカップを傾けて中身を見せると、チラッと確認した夏歩が何も言わずにまた横を向く。
「心配しなくても、なっちゃんのココアは取ったりしないよ。今度、俺用にコーヒー持ってくるし」
「勝手にひとの部屋に物を増やさないで!」
「俺用のマグカップも一緒に」
「話を聞け!」
「あっ、お揃いのカップって言うのもいいかもね。今度買いに行く?」
「こんのっ……!!」
全く話を聞かない津田に夏歩が怒りの声を漏らすと
「なっちゃんは時々口が悪いね。ダメだよ、この野郎なんて言ったら」
津田がやんわりとたしなめる。
「そこまで言ってない!!」
言おうとはしたけれど、怒りが強過ぎて言葉にならなかったのだ。だから未遂だ。