素直になれない夏の終わり
「なっちゃんって支度早いよね。女の人ってもっと時間かかるイメージが――あっ!もう、脱いだものその辺に投げない。ちゃんとベッドに置いて」
「……煩いな」
夏歩は、部屋に入って数歩進み、そこで床にポイっと放った部屋着を渋々と拾ってベッドまで運び、また放る。
今度は津田は特に文句を言わなかったので、夏歩はベッドを背にしてテーブルの方を向いて腰を下ろした。
「よし、じゃあ食べよう。はい、いただきます」
津田を無視して食べ始めようとしたら、「なっちゃん、いただきますは?」とすかさず声が飛んでくる。
鬱陶しいなと思いつつも、夏歩は渋々と口を開いた。
“いただきます”と口にしてから食事を始めるのは、一体いつぶりだろう。少なくとも、一人暮らしを始めてからは言っていない。
そもそも実家にいた時からして、言ったり言わなかったりだった。
小さい時は当たり前のように言っていた気がするけれど、いつから言わないことが当たり前になったのだろう。
考えながら、夏歩はほどよくきつね色に焼けたトーストを齧る。とろっと溶けていたチーズが、みょーんと伸びた。