【極上旦那様シリーズ】きみのすべてを奪うから~クールなCEOと夫婦遊戯~
「尊さん……」
何気なく彼の名を呟くと、胸がぎゅっと締め付けられた。
なんで切なくなるんだろう。一夜限りの相手を恋しがったってしょうがないのに。
今日は、政略結婚の相手と初めて顔を合わせなきゃならないのよ……?って。
「い、いま何時!?」
ようやく思い出した大事なスケジュールに、一気に青ざめる。
壁の時計を見ると、すでに午前十時。
顔合わせの行われる料亭には十二時に集まる約束で、十時には着付けとヘアアレンジをしてもらうための美容室の予約をしてあったのに……!
私はスマホを手に持ち、自分の部屋を飛び出し階下に降りていく。
まずは美容院に遅れるって電話して……それでもし受け付けてもらえなかったらどうしよう。
洋服で行く? それは両親が許さないよね……。とりあえず、家族の中で唯一私にそこまで厳しくない祖母にこっそり相談――。
そんなことを考えながら、祖母のいる和室のふすまをスパーンと開ける。
「お祖母ちゃん! お願い知恵を貸して……!」
和室には確かに祖母がいた。しかし、そこにいるはずのない人物まで畳の上に正座している。