【極上旦那様シリーズ】きみのすべてを奪うから~クールなCEOと夫婦遊戯~
「いらっしゃいませ、稲葉様」
受付で私たちを出迎えたのは、線の細い黒服の男性だった。
本来はここで彼に会員証を提示するのらしいのだが、常連の凛子はすっかり顔を覚えられているためその必要はないらしく、彼女は気軽に挨拶をした。
「こんばんは。黒田さんはもう来てますか?」
「ええ。お部屋にご案内します」
このフロアには、三つのレストランにふたつのバー、そして大きなバンケットルームが備わっていて、そのすべてが会員制クラブ『サンクチュアリ』のもの。
サンクチュアリはいわゆる上流階級の人間、なかでも二十代から三十代の起業家や若手の会社役員などが集まって交流を楽しむ社交場。
会員になればレストランやバーは好きな時に利用でき、ビジネス目的で利用する者もいれば、出会いの場として活用する者もいる。
凛子は後者の方で、週三ペースでこの店へ通っている。彼女はこう見えて、資産家の娘なのだ。
かくいう私も、日本有数のメガバンク『みそら銀行』で頭取を務める沖田孝蔵を父に持ち、上流階級と呼ばれる類の家に育った。