【極上旦那様シリーズ】きみのすべてを奪うから~クールなCEOと夫婦遊戯~
「お母さん……」
あんなに反抗したかった母の姿はそこにはなく、いつの間にか自分より小さくなった小さな肩を見て、胸が切なくなった。
……お母さんのこともお父さんのことも、煩わしく思っていたのは嘘じゃない。だからって、心から憎んでいたわけじゃないんだよ。
だって親子だもの。自由になれるのはうれしいけれど、離れるのが寂しくないわけがないよ……。
感極まって思わず嗚咽を漏らすと、母が子どもの時のように、私の背中をトントンと優しく叩く。
「泣かないの、美織」
「泣いてない……キャベツが目にしみたの……っ」
「しみるのは玉ねぎでしょう? もう、美織がそんなに泣くとお母さんだって……」
「ううっ、お母さんまで泣かないでよ……」
キッチンで母とふたり、お互いにもらい泣きし合って収拾がつかなくなって。トンカツは焦げるしキャベツの千切りは雑だし、散々な見た目の夕食になってしまった。
けれど、帰宅した父と祖母も交えて私の幼い頃の話に花を咲かせたその日の食卓は、今までで一番あたたかく和やかな空気が流れていた。
私は会話のあちこちで笑顔を浮かべながら、長い間心に巣くっていた両親への反抗心が、春を迎えた雪のように優しく溶けていく、そんな感覚を覚えた。