【極上旦那様シリーズ】きみのすべてを奪うから~クールなCEOと夫婦遊戯~
「……なんだ、そういうことだったのか」
ようやく得心したというふうに、尊さんが呟いた。なんだとはなんですか、と突っかかりそうになったけれど、彼は続けて意外な言葉を放つ。
「美織は俺と結婚するのが嫌で嫌で仕方がないんだと思っていた。俺と結婚するとわかってから、一度も嬉しそうな顔を見たことがなかったしな。だからこっちも仕返しのつもりで、つい遊びだなんだと言ってあまり本心を見せないようにはしていたが……」
そこで言葉を切った彼は、ベッドの上に座ったまま私に近づき、私の長い髪に手を伸ばす。そして、慈しむような優しい手つきで髪を撫でながら言った。
「お前が本気で俺と夫婦になろうとしてくれてるんなら、俺もちゃんと向き合う。今までさんざん遊び呆けてきたのは、自分の意思とは無関係に決められた政略結婚に未来を奪われるような気がしていたからなんだ」
え……? ということは、尊さんも私と同じような思いでいたの……?
「でも、黒田からあの夜の〝遊び〟に誘われた時、驚いたよ。まさか相手も同じように政略結婚の事実から逃げたくて一夜限りの相手を探しているとはな。しかし同時に悔しくもあった。この俺が夫になろうとしているのによそ見かと。……完全に自分のことは棚上げしてな」
自嘲気味に語る尊さん。確かに彼の思いは独善的だけど、それを正直に打ち明ける姿勢にはむしろ好感を持った。
それに、どうやら私たちは意外にも似た者同士だったみたい。敷かれたレールを走るだけの未来を悲観して、どうにか脱線できないかってもがいてる……その最中に、出会ったんだ。