【極上旦那様シリーズ】きみのすべてを奪うから~クールなCEOと夫婦遊戯~
「尊さん……」
心細さからつい彼の名を呼び、スマホを取り出した。電話をしようかどうか迷う。
でも昨日電話したばかりだし、私の身に起きたことを話したら彼に余計な心配をかけることになる。でも……。
私はしばらく葛藤したのち、彼に電話をかけてみることにした。
一度だけかけて、出なかったら諦めよう。そんなルールを設けて、耳に当てたスマホから流れる呼び出し音が途切れるのを祈る。
『美織? どうした?』
「尊さん……」
よかった、出てくれた……。
彼の透明感のある低い声を聴いただけで、泣きたいくらいの安心が胸に広がった。……強がらずに電話をしてみてよかった。
『なにかあったのか? 聞いてやりたいんだが、今は少し時間がなくて……あとでこっちからかけ直そうか?』
どうやら忙しいのに電話に出てくれたらしい。仕事の邪魔をして申し訳ない気持ちと、かけ直すと言ってくれている彼の優しさがうれしいのとで胸がぎゅっと苦しくなった。
「いえ、大丈夫です。ただ……少しでいいからあなたの声が聞きたくて」
ワガママともとれるような理由だけれど、尊さんは特に咎めることなく、ふっと息を漏らして穏やかに笑った。