一途な執事と甘いティータイム




***



「美菜子ーっ!」



「久しぶりだよ、菓乃ー!」



駅前で抱き合うふたり。



夏休みの駅は人で溢れかえっていて、そんな私たちを気にして見る人は誰もいない。



「楽しみだね、海!」



「友達と海水浴行くの初めてで、昨日眠れなかったもん」



「えぇ、そんなに?でも楽しみにしてくれてたのは嬉しいな」



夜も眠れないなんて小学生みたいだなと自分にツッコミを入れる。



でも、それだけ今日という日を楽しみにしていたんだ。



このために、親の仕事も手伝ったし、宿題だって頑張ったし、パーティーだってちゃんと参加した。



少し抜け出したあの一件で、また有嶋に怒られたけれど。



抜け出したことよりも、有嶋に私の姿が見えないから探して欲しいとの連絡が入り、休みを潰された事への怒りが大きいと思う。



ゴールデンウィークの時も確かそうだったはず。



ううん、今は有嶋も家のことも全部忘れてたのしむんだから!



「菓乃?大丈夫?」



ひとりでブンブンと顔を横に振ってしまい、美菜子に心配されてしまった。



「えっ、あ、うん!大丈夫、行こいこ!」



変なところを見られちゃった……



恥ずかしくなって、そんな羞恥心を隠すように、まだ心配そうにする美菜子の背中を押して、駅の改札を潜って行った。



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