気づけばいつも探してた
翔は正面を向いたままだったけど、その横顔は硬く見え、さっきまでの意地悪な笑みもいつの間にか消えている。

「翔の本心って私の想像も及ばないもの?」

沈黙の間に聞こえる祖母の静かな寝息だけが唯一この緊迫した空気を和ませていた。

「ま、いいや」

しばらくの沈黙の後、口火を切った翔のその一言で一気に緊張の糸が緩んでいく。

「……ま、いいやって、よくないでしょ」

そう返しながらも、少しほっとしている自分がいた。

だって、もしも、翔の本心が私たちの関係を大きく揺るがすものだったとしたら、一緒に松山城に行けなくなるじゃない?

っていうか、私、一緒に行きたいみたいじゃない??

あんなエリート彼氏がいながら、彼以外の男性と旅行に行くのを楽しみにしてるなんて私って不埒なの!

男性とはいっても今は友達なんだからそこまで不埒ではない、か。

自分自身でなんとか納得づけた上で、これ以上翔と拗らせたくない気持ちが先に立つ。

「翔がそれでいいなら、私も聞かなくて構わないわ」

そう小さく呟いて前方に顔を向けた。

道は相変わらず空いていて、近づいてくる緑の案内標識があと10キロで大阪に入ると表示されている。

今回は翔のおかげで念願の姫路まで祖母を連れてこれた。

翔がいなかったら全てが順調には進まなかったわけだし。

もうすぐ帰途に着くこの旅は、最後まで翔に気持ちよく感謝の気持ちだけを持っていたかった。



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