気づけばいつも探してた
本社ビルの一階ロビーで待ち合わせ、萌が最近できたイタリアンレストランに行きたいと言うのでその店に向かう。

店は、本社ビルから隣町に向かう表通りにこじんまりと存在していた。

オフィスビルの間にひっそりとその入り口だけが見える。

木で出来た洒落たアンティークの扉の上部にはグリーンのひさしが出てていて、ひさしの両サイドから可愛らしいオレンジの花が咲き乱れた丸い鉢が吊られて揺れていた。

扉を開けると思いのほか中が広いのに驚く。

間口は狭かったけれど、奥に長く伸びた店内は、窓がない分暖かみのある電飾が足元や目線を照らしムーディーな雰囲気を演出していた。

レンガ造りの壁には所々に花器自体が埋め込まれているようで、まるで壁から花や観葉植物が生えてきているようだ。

花はしっかりとスポットライトを浴びていて、その色と形がほんのりと浮かび上がって幻想的な雰囲気を醸し出している。

「この店の店長さんは、植物がとても好きなんじゃないかしら。不思議な空間だけど落ち着くわ」

店内を見回しながら、ようやく案内された奥の席に座り、萌に店の感想をそのまま伝えた。

「実はこの店の植物は私が全て生けてたんです」

「え?!」

正面に座った萌のすぐ横の壁に生けられた花を照らす暖色のライトで、彼女の顔の半分がほんのり浮かび上がっている。

その瞳は、謙虚さを湛えつつも自信に満ちた光が満ちていた。
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