気づけばいつも探してた
でも、その電話は翔ではなく竹部さんだった。

そういえば、竹部さんとも久しく連絡を取っていなかったことに今更気づく。

私はスマホを耳に当てると、足早に店の外に出た。

通りに面しているせいか、往来する車や雑踏の騒音が竹部さんの低音をかき消すように響いている。

『竹部だけど、久しぶり。今大丈夫?』

かろうじて聞こえた竹部さんの声に「はい、うるさくてすみません」と答え、必死に電話口に耳を澄ませる。

『ずっと連絡できずにごめん。この二週間ほど急に決まったアメリカに出張に行っていて』

「そうなんですね」

そう言いながら、この前竹部さんの声を聞いたのはいつだっただろうと思う。

『元気だった?』

彼の声は以前と変わらず優しい。

電話口の向こうにあるであろう美しい竹部さんの横顔も頭に浮かんでくる。

それなのに。

「はい、元気です」

『そう?なんだか元気ないように感じたけど』

「周りがうるさいから……かな」

あまりに適当に返してしまった自分に動揺し、慌てて「ちょっと友達と飲んでて酔ってるのかもしれません」と付け加えた。

『そうか。友達と食事のところ申し訳なかった。とりあえず正月の待ち合わせと時間だけ決めておこうと思って』

え?年始までまだ10日もあるのに。

「年末までお忙しいんですか?」

恐る恐る尋ねてみる。

『ああ、実はまた明日からアメリカに出張でね。帰るのが年内ぎりぎりになりそうなんだ。また詳しくは会った時に話すけど』

そうだったんだ。

その彼の言葉に、私と竹部さんの関係を一瞬見失いそうになった。

こんな状態で本当に付き合ってるって言えるんだろうか。

きちんとデートしたのも、会話したのも、付き合ってから数えるほどしかないような気がする。

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