気づけばいつも探してた
「最近アメリカ出張、多いんですね」

店内に残してきた萌が気になりつつ尋ねる。

『うん、そのことも会った時にきちんと報告しようと思ってたんだけど、実はアメリカに脳神経外科の最先端医療を学べる大学があってね。来年その大学への留学が決まりそうなんだ』

「そう、ですか」

騒音の中かすかに聞こえた彼の言葉にそう答えた。

でも、今、何て?

車のクラクションが近くでけたたましく鳴り、片側の耳を押さえる。

そして、もう一度、彼が言った言葉を頭の中で反芻した。

アメリカに留学??

ってことは、ってことだよね?

お正月にきちんと報告って、別れ話ってこと?

急に胸の奥がざわつき始める。

もちろん、いずれはそういう日が来るって思ってはいたけれど、あまりにもそれは突然であまりにも今の私には実感しずらいことだった。

頭の中がパニックになっていて、これ以上電話がつながっていたら、訳のわからないことを言ってしまいそうだ。

「あ、あの、友達を待たせてるので、またお正月に!」

『あ!ちょっと待って。まだ待ち合わせ時間と場所決めてない。とりあえずA駅の改札に十時でいいかな?』

「はい、それで大丈夫です。じゃ、また!」

私は逃げるようにスマホを切り、それを胸に当てたまま店の扉にもたれる。

そして天を仰ぎながら、ふぅと大きく息を吐いた。

お正月に別れ話だなんて。なんて幸先の悪い年明けなの?

そんな話をするための待ち合わせを、あんなにも平然と私に伝えられる竹部さんはやっぱり私の理解を通り越した人だったんだ。

ずっと付き合ってる実感がなかったのも、きっとそのせい。

自分に必死に言い訳をしている自分が余計にみじめに感じる。

私はもう一度深呼吸すると、萌の待つ店内に入って行った。


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