気づけばいつも探してた
恐らく動揺を完全に隠せていなかったんだろう。

萌が心配そうに、正面に座った私の顔を見つめている。

テーブルには、私が席を外している間に置かれたらしいイベリコ豚のミートソースが湯気もなく麺に張り付いていた。

「遅くなってごめんね。さ、冷めないうちに食べよう!」

私は努めて明るく言い、小皿を手に取る。

「矢田さん」

その時、萌が私の手をそっと自分の両手で包んだ。

突然のことに、目をぱちくりさせ彼女の顔を見つめ返す。

「どうしたの?」

「私、どうして矢田さんのことをこんなにもうらやましく思っているのかわかりますか?」

「わからないわ」

「自分には絶対持ちたくても持てないものを矢田さんは持ってるんです」

「いいのよ、私に気を使ってそんなこと言わなくたって」

私は自嘲気味に笑うと一旦小皿をテーブルに置いた。

「矢田さんはどんな時もそばにいる人に元気を与えて前を向かせてくれる」

「誰だってできるわ、そんなこと」

萌は黙ったまま首を横に振る。

「私は矢田さんがいてくれたから、今の仕事もがんばれたし、これから先の自分の道を見つけることができました。そして、矢田さんといたらこんなにも笑ってる。私はいつも自分のことが精一杯で誰かを元気づけるなんてことできません」

私の手を包む彼女の手にぎゅっと力が入った。

「矢田さんは自分がつらくてもその気持ちを押し殺して誰かを笑顔にできるんです。きっと誰にも助けてって言わないでしょう?だけど、私は矢田さんがつらい時は力になりたいです」

萌のどんぐりのような丸い目の奥が黄色い電飾に照らされて揺れている。

ああ。だめだ。

泣いてしまいそう。

鼻から息を吸い込んで、その涙をぐっと堪えた。

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