気づけばいつも探してた
「なんだか初めて聞く話ばっかりでちょっと戸惑うわ」

『美南にとっちゃどうでもいい話かもな』

「どうでもいい?そうでもないけど」

思わず言ってしまった言葉に、翔はどういう表情をしたんだろう。

電話の向こうの彼の顔が見たいと思いつつ声を潜めて言った。

「……翔が眠たくなければ、もう少し聞かせて」

『まぁまぁ眠いけど、美南が聞きたいなら自分の頬をつねりながら話すよ』

いつもの調子に安心して、私は笑いながら「お願いします」と答える。

翔の話はどれも初めて聞くことばかりで、今まで私が知っている翔の笑顔が全く別人なのかもしれないと錯覚を抱いてしまうほどに。

彼の全てがどんどん違う色で塗り替えられていく。

***************

翔の母親は、彼が10歳の時今の父親と再婚した。

父親は、当時、T大学病院の脳神経外科部長で現在は病院長をしているというエリート中のエリート。

そんな父親には翔よりも一歳上の男の子がいて、その子が翔の血の繋がらない兄になった。

生粋の医者家系に生まれた兄はもちろん頭もよく、ストレートでT大医学部に入る。

翔は医者の血など引いていないので、特に医者になるよう強要されたわけではなかったけれど、いつまでも優秀な兄と比較されるのも悔しく、父に認めてもらいたいという気持ちも手伝って自分もT大医学部に入学したらしい。

思いのほか、翔にとって医学部の内容は興味深く、兄の成績を追い越す勢いで勉強に励んだ。

兄への遠慮と組織のわずらわしさから、卒業後研修医を経た後、大学病院の医局を出て知り合いの病院で勤務していたが、先月父から呼ばれてまた大学病院に戻り小児科医副部長に就任したということだった。
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