気づけばいつも探してた
きれいな彼の二重の目は、あの日の月みたいにキラキラと穏やな光を湛えて私を見つめていた。

「ちょっとだけ疲れたかも」

すぐに翔から視線を背けそう答えた。

「さっき城に上がってくる途中にお茶屋があっただろう?そこで休憩しよう」

「そうね。おいしそうなみかんジュースが売ってるみたいだったわ」

「さすが美南。しっかりチェックしてるところは抜け目ないな」

「やな言い方」

そう言ってニヤニヤ笑っている翔を軽く睨むもすぐに吹き出してしまう。

私が疲れたと思っているからからか、お茶屋までの下り道も翔はずっと手を繋いでいてくれた。

優しい手。

こんな手をしていたんだ。

彼に手を繋がれることがこんなに居心地いいものだったなんて思いもしなかった。

最初で最後かもしれない二人旅に初めて気づいたこと。

もっと早く気付いていれば私たちの関係は変わっていたのだろうか。

翔の手をぎゅっと強く握りしめてみる。

彼はそれに気づいたのか、一瞬私に視線を落としたけれど口元を緩めすぐに前を向いた。

翔の心の真ん中は私のことどう思ってるんだろう。

どうして、これ以上距離を縮めようとしなくなったの?

彼の頬を見つめながら、そう言ってしまいそうになる衝動を必死に抑え込む。

近いうちに竹部さんに振られるだろう今の状況で、自分の気持ちに気づいてしまったってことを翔に伝えたって何も問題はないはず。

だけど、どうしても翔には中途半端な状態で自分の気持ちを言いたくなかった。

翔もきっとそういうことは望んでないだろうから。
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