気づけばいつも探してた
戻りの道のりは、なんとなくそういう気はしていたけれど、やっぱり翔は手を繋いでくれないまま。

ロープウェーに乗った途端、疲れがたまっていた膝がにぶく傷んだ。

二人ともあまり食欲がなかったので市街で早めの夕食を軽くとってホテルに向かう。

チェックインを済ませた翔が私にカードキーを手渡した。

「部屋別にしたから」

え?

一緒じゃなかったの?

エレベーターに乗り込むと翔はようやくいつもの調子で笑いながら言った。

「俺は隣の部屋だから寂しかったらいつでも来ればいいよ」

なんだろう。

翔が一体何を考えてるのかわからない。

っていうか、私は彼氏のいる身で、翔は友達なわけだから本来なら部屋が別なのは当然なことなのかもしれない。

私が変なんだ、きっと。

翔と並んで別々の扉を開く。

「俺も寂しくなったらそっち行く」

「は?」

突然そんな捨て台詞を吐いた翔は、私が彼の方に顔を向けた時にはもう扉の向こうだった。

ドクンドクンと再び心臓が激しく跳ねだす。

翔は、一体どうしようっていうの?

私をこんなに翻弄させて。

でも、翔は誰かを翻弄させようなんて器用な性格じゃないから、きっと無意識で言ってるんだ。

私の機嫌が急に悪くなったから彼もどうしていいのかわからないのかもしれない。

大きくため息をつき、部屋に入った。

私から翔の部屋になんか行けるはずないじゃない。

翔だって、寂しいからって私の部屋に来るなんてことあり得ない。

隣同士。それぞれ一人ぼっち。

大きな窓の薄いカーテンを開けると、夕焼けに染まった松山城が遠くに見えた。

まるでどこでもドアを使って、一瞬でこの部屋に飛び込んできたような気持になる。

翔は本当にここまで一緒に来たのかしら。

松山城への旅は、ひょっとしたら全て私の幻想だったのかもしれない。

山の向こうに日は落ち始め、一気に街全体が暗闇に閉ざされていく。

夢……なのかな。ここにいるっていうことが非現実的に思える。

暗い部屋で、明かりも灯さず備え付けの椅子に腰をかけた。





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