気づけばいつも探してた
ゆっくりと扉に近づき、取っ手に手をかける。

どうにかなっちゃうんじゃないかしらと思うほどの速さで心臓が動いていた。

いたって普通にしよう。

疲れて、うとうとして、夢の中で送っちゃったって笑って言おう。

鼻から大きく息を吸い込んで、口から静かに吐きながら扉を開ける。

ベージュの品のいいタートルのセーターと見慣れたスリムなジーンズを履いた翔が目の前に立っていた。

翔は瞬きもせずまっすぐ私を見降ろしていて、その表情は見たことがないくらい無表情だ。

それは怒っているのか、何かに迷っているのか、ふざけているのか、私にも全く読めないほどの限りなく無に近い表情。

ただ、彼の頬がわずかに紅潮していた。

普通にしなくちゃ。

私は必死に笑顔を作り言った。

「ごめんごめん、なんだか寝ぼけて変なLINE送っちゃった」

その直後、私が抱きしめられるのと同時に彼の向こうで扉がバタンと締まる音が響いた。

背の高い彼の胸に自分の顔がうずまっていて、呼吸ができない。

でも、このまま死んじゃってもいいか、なんて苦しい向こう側で思っている自分がいる。

気が遠くなりそうになった時、翔の体が少し離れ私との間に隙間ができた。

翔は今どんな顔してるんだろう。

やっぱりさっきのような無表情なのかな。

呼吸を整えながらゆっくりと彼の顔を見上げた。

……。

私の唇に柔らかくて温かいものが触れる。

何??

パニックになりながら目を大きく見開くと、翔に唇を塞がれていた。
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