気づけばいつも探してた
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あの日がクリスマスだったなんてすっかり忘れてしまうような衝撃的な松山の旅から戻り、あっという間に年が明けた。

松山での出来事は私にとっては事件。

帰ってきてからも、翔のことが頭から離れることはない。

早く彼に自分の本当の気持ちを伝えたい。

年明けの今日、竹部さんと会ってきちんとお別れできたらすぐに翔に連絡しようと思っていた。

待ち合わせの駅で待っていると、黒のつややかなカシミヤのロングコートを羽織りブルーグレーの品のいいマフラーを巻いた竹部さんが現れた。

すれ違う誰もが思わず視線を止めてしまうほどその姿は素敵だ。

そんな彼が私の前に立ち「おめでとう」と微笑む。

「おめでとうございます」

短い間だったけれど、こんな素敵な人に付き合えたっていう経験はとても貴重だったわ。

長身の彼の背中を追いかけながら、向かった神社はお正月とあって人であふれなかなか本殿までたどり着かない。

背の低い私はその人の波に飲み込まれ竹部さんの背中を見失いそうになる。

その時、彼が振り返り私の手をそっと握った。

革の手袋をはめた竹部さんの手はとてもしなやかで大きいけれど、やっぱり翔の握る手の方が好きだと思いつつ、そのまま竹部さんに引っ張られるように前に進んだ。


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