気づけばいつも探してた
ようやく本殿の前に着き、お賽銭を入れると慌ただしく手を合わせる。

本当はもっとゆっくりと祈りたかったのに、後ろから迫ってくる人の波に押され祈りも半端なまま竹部さんに手をひかれて人の少ない広場に抜けた。

「すごい人だったね」

手袋を脱いだ竹部さんは乱れた前髪を掻き上げる。

「はい、本当に」

私も首をすくめて笑った。

「神様に祈ったこの場所で聞いてほしい話があるんだけど」

ドクン。

いよいよだ。体が緊張して固くなる。

急に真面目な顔になった竹部さんが人気の少ない梅林が植えられているベンチに腰を掛けるよう私に促した。

厚手のロングスカートを履いていたけれど、ベンチは座るととてもひんやりしている。

私の隣に竹部さんがゆっくりと座った。

目の前にはまだ蕾の気配すらない梅の枝が何層も続き、まるで複雑な幾何学模様を作っているようだ。

「ここは3月に来ると梅がとてもきれいなんだ」

「そうですよね。まだ大学生の頃、友達と来たことがあります」

私たちの座る前に小さな子供が走り過ぎ、その子を笑いながら追いかける父親らしき男性が後に続く。

竹部さんは軽く咳ばらいをし、組んでいた足を組み替え話し始めた。

「昨年、ちらっと話したんだけど、今年の春からアメリカのN大学に正式に留学が決まった」

「そうなんですね。おめでとうございます、でいいのかな?」

私が竹部さんの方に顔を向け微笑むと、彼は口をきゅっと結んだままやや緊張した様子で頷いた。

「恐らく3年は日本に帰れないと思うんだ。それで、なんだけど」

はぁ。

振られる時は、いつだっていい気分ではない。

例え、私がその相手への気持ちがなかったとしても、自分のダメ出しをされるようで耳を塞ぎたくなる。


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