気づけばいつも探してた
「まさか、矢田さんも私より早く辞めたりしないわよね」

立花さんは普段以上にしっかりとアイラインを引いた細めの目を吊り上げて私を見下ろした。

「ないです。特に何か他にやりたいこともないし」

「そう?ならいいんだけど。そういえば若葉さんもフラワーアレンジメントやりたいとか言ってたわ。そんなもので生きていけるのかしら?聞いてて口があんぐり開いちゃった」

「実際フラワーアレンジメントで生きてる方もいるでしょうし、やるだけやってみるのは悪くないと思いますけど」

「そりゃそうだけど、大体ねぇ、彼女の考え方は甘いのよ。だから仕事もなかなか物にならなかったんだわ」

「いいんじゃないですか。萌はまだ若いし、やりたいことやったって何度でもやり直しは利きます」

言ってしまってから「あ」と思い口を塞ぐ。

「それじゃまるで、萌よりずっと年上の私はもう手遅れみたいにも受け取れるけど?」

「いえ、そういう意味では。もちろん私も含めての話なので……」

気まずい表情で「ははは」と引きつり笑いしながら、再びパソコンの画面に視線を戻した。

「ほんと、失礼しちゃう」

そう小さく吐き捨て、自分の席には戻らずフロア奥に設置されているドリンクバーの方へ向かう立花さんの背中を見送る。

いつものように、そこでコーヒーを淹れて、男性社員に私たちの悪口を言って回るんだろう。

そんな人に、萌や私のことをとやかく言われる筋合いはないんだから!

萌の小さな背中を見つめながら「がんばれ」と小さく呟いた。


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