気づけばいつも探してた
「どうかした?」

そう言いながらもまだ話せる喜びに胸がほくほくしている。

『美南、最近変わりはない?』

ひょっとして、プロポーズのことを聞き出そうとしているのかしら。

だって、そんなことあったら、今までならまず真っ先に翔に報告するもの。

でも、今はまだ言えない。

「ええ、特に何も変わったことはないけど」

『そう?』

「何か気になることでもある?」

思わずこちらか振ってしまった。

少しの間の後、翔は静かに答えた。

『しばらく会ってなかったから』

「私は大丈夫だよ。翔こそ大丈夫?」

『俺?……んん、まぁ、大丈夫だと思う』

「大丈夫だと思う?って自分のことじゃないみたいな言い方ね」

思わずいつものように突っ込んでしまう。

翔のお兄さんのことを何かポロっと言わないかしらと思いつつ、次の言葉をじっと息をひそめて待っていた。

『食事会、楽しみにしてるよ。最近まともな食事取ってないからさ』

だけど、そう簡単には腹を割らないのが翔だ。

そんな性格だってことはずっと前から知っていたけれど。

「そんなに忙しいの?」

『そうだね。やっぱり大学病院は自由が利かない。俺には向いてないと改めて思うよ』

「まさか、また外に出るなんてことないわよね?」

『さぁ、どうだろ』

翔は意味深な声のトーンでそういうとふぅーと少し長めの息を吐く。

『お母さんとおばあちゃんによろしく伝えて。じゃ、今度こそおやすみ』

「うん、おやすみ」

切れてしまった電話を耳に当てたまま、ツーツーという機械音をしばらく聞いていた。

その音の数だけ翔との距離が開いていくような気がして慌てて電話を切る。







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