気づけばいつも探してた
「翔さんは、T大学病院の小児科の先生なんですって?」

母が紅茶を飲みながら尋ねる。

「ええ」

翔も静かに頷き、ティカップを傾けた。

「忙しいから恋人とデートする時間もないんじゃない?」

ひゃー。

また余計な詮索が始まった。これだから母と一緒だと何かとひやひやする。

でも、さすが翔はそんな質問にも動揺することなく、母に優しく微笑み答えた。

「そうですね。でも、今は恋人もいませんし問題ないです」

「そんな素敵なのに恋人いらっしゃらないの?もったいないわ」

母は私にちらっと視線を向ける。

一応、私には今彼氏がいるってことは母も承知しているので、さすがにそれ以上突っ込んでくることはしなかった。

「じゃ、しばらくは恋人はお預けってところかしら?」

翔は前髪を掻き上げると、苦笑する。

「しばらくっていうか、当分はいらないかなって思ってます」

「え?そうなの?」

母は目を丸くして正面に座る翔の顔を覗き込んだ。

彼は私の方に視線を向け、じっと見つめてくる。

ドクン。

その透き通るような瞳に吸い込まれそうになりながら私も見つめ返す。

そして、翔は私を優しく見つめながら続けた。

「美南にも近いうちに報告しようと思ってたんだけど」

報告?

胸が一気にざわつき始める。

「T大学病院と提携しているマイアミの大学病院があるんだけど、そちらにしばらく赴任することになったんだ」

「本当に?」

微かに潤む彼の瞳から目が離せない。

翔もアメリカに行ってしまうの?

「急だけど、どうして?」

「向こうで急に小児科医が足りなくなったらしくてね。真っ先に志願したんだ。今の俺のポストの代わりはいくらでもいるけど、向こうは本当に医師の数が少なくて困ってるらしくてさ」

「志願って、お父様は承諾したの?」

「俺が大学病院と肌が合わないのはもともと気づいてたからね。向こうで小児心臓外科の研究も兼ねて行くと言ったら渋々承知してくれたよ」

フッと口元を緩めた翔は再び母の方に顔を向けた。
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