気づけばいつも探してた
「そんな訳もあって、当分は独り身でいいかと思ってます。っていうか今は結婚する気もないので」

「あら、そうだったの。でも、あちらに赴任するなら伴侶がいた方が何かといいんじゃないかと思うけれど?」

「結婚したい相手とは結婚できないので。それならしなくてもいいかなって」

翔は冗談にもとれるような、曖昧な表情を浮かべて言った。

母もそれ以上聞いてはいけないと察したのか「そう」とだけ言って、ティーカップに口を付ける。

結婚したい相手と結婚できない……。

それって、私のこと?

今すぐにでも自分の気持ちを伝えることができたらどんなにいいんだろう。

竹部さんにどう思われたって、私は翔が好きだ。

翔となら、例えどんなことがあったって乗り越えられる。

きっと大丈夫。

翔を横顔を見つめながら、今日別れ際、竹部さんよりも先に自分の気持ち伝えようと思っていた。

これ以上、翔と離れ離れになりたくない。

翔と会えなくなるなんて考えられなかったから。

しばらく四人でお茶を飲みながらたわいもない話をした。

母も、さすがに恋人や結婚の話に頑なに乗ってこない翔に、それ以上話題を振ることはなかった。

ちらっと腕時計に目をやった翔が「俺そろそろ帰らなくちゃ」と言って立ち上がる。

「今日は本当においしい食事をありがとうございました」

そう言うと、母と祖母に深く頭を下げた。

長身の翔を見上げながら母は「またいつでもいらしてね」と微笑む。

二人で玄関から外に出ると、翔に手を振って見送る母を見ながら扉をそっと閉めた。

いつから、マイアミに行くんだろう。

自分の気持ちを伝えると決心したものの、未だに心が震えている。

翔が自分の車の前でキーを取り出した時、思い切って彼の背中に向かって「翔!」と呼んだ。
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